テキストP.48 日本漁船(20トン未満)に見られるデッキ下のイケス設備

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日本の沿岸漁業でイワシを生き餌として積んでいきカツオを一本釣りで釣り上げる漁業の漁船は、イケス設備を最も重要な設備として、船舶の設計段階より配置や構造的強度なども計画され建造されています。また、このようなイケスは、大容量の生き餌が入るよう容積も大きく、最終的には生き餌が無くなった所に釣り上げた魚を積んでこられるよう防熱処理までされ漁艙を兼用できるようにもなっています。したがって、ここで紹介するイケス設備は、このような超本格的な大型設備ではなく、日本の沿岸で活躍している漁船(20トン未満)に多く見られるデッキ下のイケス設備として、プレジャーボートに応用できる範囲で基本的な考え方を解説しています。

●デッキ下のイケス設備の配置場所
イケス設備は水を入れた時と入れない時の重量差が大きいため配置する場所によっては船体のバランスに大きく影響してしまいます。したがって船の重心位置(図1)に配置することが最も適切なのですが、多くの船舶は、この位置にエンジンやキャビンを配置する場合が多いため、重心位置に近い方のデッキ下に配置するか、前後のバランスを考えて、前後両方に配置するように設計されています。又、船底に穴をあけて水の出入口用スカッパーを取り付ける通常のイケス設備は、走行中スカッパーが水面に出てしまう船首よりの位置では、十分な機能を得られない不適切な場所といえるため、特例をのぞいては配置しないのが通常です。一般的に日本漁船(20トン未満)の多くは上部構造物(キャビン)の配置によってイケス設備の場所が決定されることが多く、後方によったキャビンの場合には表デッキ(図2)へ、中央にあるキャビンの場合には友デッキ又は、友表両方(図3)に配置させるのが常です。さらに幅が広く復原力がある大きめな船舶は船の中央に大きく1個配置するのではなく、左右に分けたり、中央に1個、左右で2個、合計で3個配置して、バランスを考え使い分けできるよう工夫されているもの(図4)のように、他の積み荷によって前後のバランスをとり、漁の時に適切な位置にイケス設備が使用できるよう使い勝手を考えて配置しているケースなどもあります。
イケス設備の配置場所は、船体の重心位置近くにあり、センターライン上にあることが理想的ですが、さまざまな漁の種類によって、必要なイケスの容量や数は変わってきます。したがって、漁業者は、イケス部分を漁艙にしたり、他の積荷が入るような艙庫にしたりして調整し、船のバランスを失うことがないようにすることで安全に航海できる努力をしています。このようにイケス設備の配置場所は、船体に及ぼす影響が大きいため、漁の種類や構造物の配置を考え、設計段階より計画する必要がある重要な設備であるといえます。


●船体構造の利用とイケス内に水が入ることによる船体への影響
イケスのように水密性を重要とする設備は、船体構造においても十分な強度がある部分を利用して配置する必要があります。そのため通常の漁船では、バルクヘット(隔壁)間を利用して建造されることが多く、衝撃やねじれなどによって他の区画に水が侵入しないよう十分な工程と技術が必要になります。又、区画内をイケス、艙庫、空所などといくつかのスペースに分けて利用する場合は、さらに工事の完璧さを要求されます。

次にイケス内に水を張った場合の船体への影響に関して説明すると、中央部(センターライン上)に単独で作られるイケス(図1)は、水の出入口用スカッパーがとてつもなく大きくないかぎり、水が喫水レベルまでイケス内に入ることで、その分KG(ベースラインの下面から船の重心までの高さ)を下げたことと同じような結果になるため、喫水が下がった分だけ船が重くなったといえます。しかし、左右に設けたイケス(図2)内に水が入り、出入口用スカッパーを通して水の出入りがある場合は、復原力に影響し、水の出入りが多い程、復原力を下げてしまうことになります。したがって、荒海を航海する小型船舶などのイケス設備は中央に配置することが望ましく、複数に設備する必要がある場合には、出入口用スカッパーのサイズをできるかぎり小さくして利用するか、あるいは全く利用しないでポンプにより水を循環させる方法を採用するほうが安全であるといえます。

CHECK POINT船底に穴をあけないイケス設備は、船のデッキ下にウォーターバラストを積んだことと同じ状況になるため、水が入り込んだ分だけ船が重くなります。また穴をあけた場合は、イケスが船の中央部(センターライン上)から両舷にはなれるほど、水の出入りの量の差によって復原力は下がることになります。

●イケス設備に利用されるスカッパー類と装備する位置

FRP漁船が多く建造されている今日、イケス設備に利用されるスカッパー類も大きく進歩し、現在ではプラスチック製品が主流で、高強度の樹脂で製造されるものまで出まわるようになりました。又、従来のスカッパーは、フィン(潮受け)を別に設けないと水が出入りしないものでしたが、現在は1個のスカッパーで水が出入りしたり、スカッパー自体にフィン(潮受け)が付いているものや、フィン(潮受け)の方向をイケス内より自由に変えることにより水流が調整できるタイプなど高速艇に対応するものまで開発されています。
次に、スカッパーに付属するアクセサリー関係ですが、水量調整パイプや、小魚が穴につまらないよう工夫されたネットキャップ、また深いイケス内でもデッキ上よりスカッパーのフタを開けしめできるドライバーなど、スカッパーの大きさやイケスの深さによってサイズ別に用意されていますので様々な環境のイケス設備に応じて利用することでイケス設備を充実させることができます。なお、大変残念なことですが、スカッパーは生産するメーカーによってネジのサイズや形状が異なるためアクセサリー類は他メーカーに合わないようになっています。メーカーによっては、ここまでの用意がない場合がありますので、スカッパーの選定には注意が必要です。スカッパーをイケス内の船底に装備する場合、どこから入れてどこから出すのが良いかという問い合わせを多く受けるのですが、船型によって多少異なる場合がありますが、一般的にはイケス部分にあたる水圧が低い方より水を入れ、高い方より抜く方法が良いのではないかと考えます。理由としては、入れる方の水より出る方の水のほうが管理しやすいことや、出る方が多ければ一定レベル以上に水位は上がらないことからです。しかしこの場合、自船が走る走行スピードに合わせフィン(潮受け)の高さや方向を調整して出入りの水流が同じようになるようにしないと、イケス内の水量は出す方が多くなり水が無くなってしまうおそれがあります。そこでスピード変化が大きい船舶は、その都度水流を合わせることが大変困難なため、出口側スカッパーに水量調整パイプをセットすることによって、そのパイプの高さまでは水位が常に保たれるように対策することができます。まだまだいろいろな方法もあるのですが、基本的には出口側で水流を管理する方が高速艇にとっては管理しやすいようです。

●循環用ポンプを導入する場合の基本的考え方と装備の仕方
前項イケス内に水が入ることによる船体への影響で説明したように、復原力を下げてしまうイケス設備のように船底にスカッパーを装備できない船舶では、循環用ポンプを導入して外部より水を吸い上げイケス内へ吐出することでイケス内の水を循環させます。又、船底にスカッパーを装備しているイケス設備であっても魚の種類や魚の量によってはスカッパーから出入りする水流の強さが足りない場合、強制的に水を循環させるためにポンプを導入します。まして真夏の水温が高い時には、水の循環だけでなく空気も一緒に送り込まないと容量が小さいイケス設備では魚を生かしておくことが難しくなります。
このようにイケス設備にとって循環用ポンプは重要なアイテムで、主にイケス内の水を循環させるためや、外部より水を吸い上げイケス内に吐出させるために使用する場合が多いのですが、いろいろなアクセサリーと組合せることで、逆にイケス内の水を吸い上げ外部に排出する使い方などもできるほか、装備に仕方によっては多用途に利用することができます。そこで、循環用ポンプを導入したイケス設備の装備の仕方として、様々な方法の中から最も基本的な二つの代表例を右図で紹介しましたので、対策が必要なイケス設備の環境に合わせて応用することで理想的な状況を作り出してください。なお、このようにポンプを導入した装備は、配管に圧力がかかることが多いため、工事には十分な注意が必要です。

外部の船底より水を吸い上げコックを通してシャワー側、吐出側へと水を送ります。この方法ですと、船底に穴をあけスカッパーを取り付けなくてもイケス内は常にクリーンな状態を保てます。この際、オプションとしてオーバーフロー口を取り付けておかないとイケス内に水があふれ出てしまいます。

イケス内の水を水中ポンプを利用して循環させる方法です。船底にスカッパーがあれば外からの水も取り入れることができます。エンビ管などを利用してイケスの高い部分よりシャワーを吐出させる場合、シャワーエンド側にコックを取り付け、さらに吐出用のエンビ管を追加することによって、コックの開閉でシャワー側、吐出側の水量を調整することができます。

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