P.156-160 中古艇セーリングクルーザーを購入(回航そしてメンテナンス)
3年3ヶ月を経過した中古艇(セーリングクルーザー)を購入
メンテナンス後、使用目的に合ったアレンジを加え小網代港泊地(小網代ヨットクラブ)に係留するまでを紹介しました.
購入したヨットはポーランド製DELPHIA-31、年式は2013年。
3年3ヶ月を経過した新艇に近い状態でした。この艇は機能的で頑丈なので、過酷なコンディション下でも安定しているため高い評価を得ています。船内も落ち着いた木目調のおしゃれなインテリアで4~6名でもゆったりと過ごせる広さと設備を兼ね備えていました。私のこの先の人生に最も適したセーリングクルーザーだと感じていました。売買が成立して2017年4月初めに回航。マリーナでの桟橋水面係留艇で年に一度は上架して船底のメンテナンスを行い、船底塗装はそれまでに3回程重ね塗りをしている状態でした。昨年の12月に船底塗装、亜鉛交換等をしたので、船底のメンテナンスは申し分ない状態であると説明を受けていました。
DELPHIA-31 購入した中古艇の仕様書
主要諸元 全長:9.85m、水船長:9.48m、全幅:3.40m
吃水:1.85m、重量:5.1t、バラスト:1.65t
搭載エンジン:Volvo D1-30F(30ps)、燃料タンク容量:100ℓ
清水タンク容量:150ℓ、船検登録年度:2013年12月
船外装備品
メインセイル(メインファーラー)、ジブセイル(ジブファーラー)、セルフタッキングジブ(セルフタッキングレール)、セルフテーリングウインチ、ドジャー、ビミニトップ、コクピットカバー、電動アンカーウインチ、GPSプロッター漁探、オートパイロット、風向風速計、コックピットテーブル
船内装備品
エアーコンディショナー冷/暖房110V/10000BTU、温水システム(110V/エンジン)、電動マリントイレ、トイレ内シャワー設備、冷蔵冷凍庫75ℓ-12V、バッテリーチャージャー(110V-12V25A)、ステレオ(AM/FM/CD)&スピーカー船内外、マリンVHF&アンテナ(マストトップ)、TVアンテナ(マストトップ)、トランサムステップ、トランサムラダー
回航、そして泊地への係留準備のために上架
艇の係留先は神奈川県が管理する小網代港泊地(小網代ヨットクラブ)。県のルールとして、船体計測が必要なため、まずシーボニアヨットハーバ
ーに上架。その後引き続き、上架中に1週間の予定で船底のタッチアップや船体ハルの磨きを行うというスケジュールを立てました。
横浜ベイサイドマリーナから小網代港まで約30マイルを回航。艇の性能や特徴を把握するには十分な距離と時間です。また、上架することで船底の確認ができる上、その1週間で船の内外を見ながら自身の使用目的に合ったアレンジを色々と検討できると考えていました。
横浜ベイサイドマリーナよりシーボニアへ回航して上架後、初めて見る船底部分。ボルボ社セイルドライブに2ブレードタイプの固定ペラ。プロペラがホールディングプロペラではなかったので少し残念な気がしましたが、船底に汚れもなく良好な状態でした。
ところが、ベルトで吊って水切りをして30分ぐらい経過して作業用の船台に収まった頃、船底塗装部分がぼろぼろと剥がれ始めてきました。特にベルトで吊った部分は酷くペンキが圧力でズレ落ちるように剥がれています。
作業工場近くに移動されてきました。水切りをしてから2時間が経過し船底はよく乾いています。観察すると吃水から上の部分は問題ないのですが、海水に浸かっていた部分の塗装がいたるところぼろぼろと剥がれています。
船底塗装に問題点が発覚
次の日、船底の事態はさらに深刻な状況に。部分的ではありますが、多くの箇所で3回重ね塗りした1回目の塗装まで剥がれてしまっています。シーボニア所属のプロのペンキ屋さんに、「これはひどいですよ!下地の処理(ペーパーがけ)をしないで塗りたぐったか、下地が湿った状態で塗るとこのような状態になる。」と言い切られました。「タッチアップしても無駄ですよ?2~3年乗って買い換えるなら我慢して乗るのも良いでしょうが、長年乗るなら塗装を全て剥がしてきちんと再塗装するべきですよ!船が可哀そうですよ!」と言われてしまいました。
「中古艇の購入は現状渡し」という契約条件だったにも関わらず、購入の前に上架して船底をチェックしなかった責任は私にありました。30分で症状が出てきたわけですから上架していれば気がついたはずです。原因はやはりペーパーがけをせず塗装し、さらに完全に乾かさないで下架したことでした。
こうなれば全て剥がして最良な方法で船底塗装をやり変えるしかないな!と気を取り直して前向きに考えることにしました。そして、私が学生の頃からの知り合いのシーボニアの宮崎塗装さんに依頼することに。45年前、先代の頃から旧知の仲で、今は息子さんが引き継ぎ、既に30年以上の大ベテラン。私達も手伝うからと言って相談してみました。すると返事は「手伝いはいらないけれど、一人でコツコツと仕事の合間でやらせて欲しいので納期はせかさないで欲しい。ペンキをはがす作業は環境や施設のことも考えないといけないので昔のように(バリバリと電動工具を使う)いかないのです。」と話してくれました。そして「良心的にやりますので私を信用してください。」とのことでした。
船体が乾き始めるとバリバリと船底塗装部分が剥がれてきました。特に以前に船台やベルトがかかった部分はひどい状態です。
写真では少しわかりにくいのですが、底部まで剥がれが出てきています。乾くにつれてここまで徐々に剥がれが広がりひどい状態です。
どこまで剥がれるかを知るために高圧洗浄機で洗ってみました。3年間で3回塗装したと言っていましたが、下地まで出てしまいました。
この上から塗装してしまうと船底はボコボコになってしまいますし、すぐに剥がれる可能性がありヨットにとっては致命的です。
船底塗装の剥離、そして再塗装
プロに任せることになった船底塗装。雨や風が強い日は作業ができませんでしたが、仕事を依頼して約40日後に完成した作業工程の様子を紹介します。(塗装の剥離から始まり下地の調整、そして錆止めから上塗り完成まで)
昔から使われている鉄製のスクレッパーでコツコツと剥がしています。ブルーシートで受けを作り下のコンクリート地面が汚れないように工夫しています。
喫水より上の部分は塗装が硬いのでクレッパーだけでは剥がせません。ペイントリムーバー(アクアストリップAQ01)を使っていました。
気が遠くなるような作業でしたが、毒性のある塗装部分はほぼ剥がすことができました。舵やキールの部分も完璧に落としています。
マスクをしてサンディング作業です。この作業は電動やエアー工具を使えるので比較的効率が上がり出来栄えも納得する結果が出やすい作業です。2段階に分けてサンディングし地肌は完璧な仕上がりでした。
サンディング終了後ウエスとアセトンで汚れと油分を除去しキール部分から塗装が始まりました。キール部は020防蝕プライマー2回塗装、そして013 FRP用エポキシプライマーを2回塗装しています。
船体部は013 FRP用エポキシプライマー2回塗装し015バインダーを1回塗装。そして039船底塗料を2回塗装、喫水付近はさらにもう一度塗装しています。塗装間の乾燥時間を十分にとり完璧な塗装作業でした
塗装中に船台に当たっていた部分は入念に作業を行っていました。塗装作業が終了して2日後にクレーン作業で船台に当たる部分を変え、他の部分と同じ工程で塗装作業を行いました。
セイルドライブは通常の船底塗装。プロペラ部はペラクリンセットで上塗りは3回塗装。ペラクリンは取扱説明書通りに施工する事、特に乾燥時間厳守は最重要です。
作業工程と使用材料
船底塗装作業(船底高圧ポンプ洗浄、旧塗装全面剥離、サンディング)
キール部 シージェット020防蝕プライマー2回塗装
シージェット013 FRP用エポキシプライマー2回塗装
シージェット039船底塗料 全体2回塗装
船体部 シージェット013 FRP用エポキシプライマー2回塗装
シージェット015バインダー1回塗装
シージェット039船底塗料 全体2回塗装、喫水付近さらに1回塗装
プロペラ部 ペラクリンセット3回塗装
使用材料
シージェット020防蝕プライマー 2缶、シージェット013 FRP用エポキシプライマー 4缶、シージェット039船底塗料 5缶、シージェットシンナーA 6缶、エポキシシンナー 4缶、塗料剥離剤アクアストリップAQ01 1缶、ペーパー類、洗浄用アセトン、マスキングテープ、養生シート他
船体及びチークデッキのクリーニング
細かいところまで観察すると船体はかなり汚れていました。使用した洗剤やメンテナンス剤を紹介しながら、各部の様子を紹介いたしました。
船体の泥汚れや水垢はボートソープや3M CLEANER WAX(水垢とり)で落ちたのですが、サビ汚れの多くが残ったので、サビ落とし(エンバイロクリーン・プラス)を使って落としました。
使用材料
●W/Mボートソープ 946ml
●3M CLEANER&WAX9009 473ml
●エンバイロクリーン・プラス0.5ℓハケ付
●チークワンダー・クリーナー&ブライトナー各1ℓ
●チークワンダー・ドレッシングシーラー 1ℓ
最も汚れていたのが、コックピットのチークデッキ部分。油や食べ物が染み込んだ汚れが多くありましたので、チークワンダー・クリーナー&ブライトナーで汚れを落としました。
保護剤のチークワンダー・ドレッシングシーラーで仕上げをしました。新艇当時の色合いに戻りました。約4ヶ月でドレッシングシーラーの効果が落ちてきますので、汚れを取り除き再塗布することをお勧めします。
ハル磨き&ワックス作業
この艇はポーランドで誕生してから4年が経過するので、紫外線によって少し輝きを失っていました。上架している時にしか本格的にハルを磨けないので、コンパウンドで軽く磨き、ワックス仕上げをすることにしました。使用した材料を記載しましたので参考にしてください。
通常ではこの程度のハルの磨きは3Mエフ1細目コンパウンド(#1500番)を選ぶのですが、少し色あせがあったので細目コンパウンドの中で特に切削性に優れている3MコンパウンドDC-1L(#1200番)を選択しました。フィニッシュは染み込みが良い液状ワックスで仕上げています。
使用材料
●3MコンパウンドDC-1L(5936R)750ml
●3M LIQUID WAX 437ml
小網代泊地に係留。小網代港を利用した泊地で創立60年を超える小網代ヨットクラブが運営管理を行っています。
船底塗装の効果と汚れの観察
①
②
③
④
① 5/27 下架。6/30 約1ヶ月が経過。ぬめり(藻類)が少し付いてきました。近年海水温が上がっているので仕方がないようです。スポンジで部分的に落としてみました。
② 7/14 出港して4時間セーリングした後は、ぬめりは少し取れています。スポンジで擦った部分にもぬめりは付いています。従ってこの程度のぬめりは擦る必要はないと思います。
③ 11/19 だいぶぬめり(藻類)が多く付いてきました。よく観察してみるとフジツボが付いています。
④ スポンジでは落ちないのでプラスチック製のヘラを使ったら簡単に取り除くことができました。喫水上には亜酸化銅が出ていますが、夏の水温上昇で水温が高い喫水近くにフジツボが少し付きましたが、深い所には付いていないようです。また、これからの季節は水温が下がりますので、これ以上フジツボは増えないと考えています。そういう訳でスポンジを使って汚れを落としてみました。(弊社で25年間取り扱うアメロン船底塗料は1年ぐらいでは全くフジツボは付きません。ブラックとレッド色しかないので、今回は採用しませんでした。)