P.97-101 実践編におけるスパンカーを装備した船の操り方(釣り方)

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8.実践編におけるスパンカーを装備した船の操り方(釣り方)
前日の情報でヤリイカや小型のムギイカが釣れていることを知り、入念に釣りの準備と船の点検をすませ、めざしたのが東京湾口・久里浜港から東へ5マイル、水深60〜100mの漁場。この日の天候は曇り、北東の風弱く、波も比較的おだやかな海況。24フィートの小型フィッシングボートでフィッシングを行う海としては最高のコンディションです。操船しながら釣りを楽しみたいと考える船長と、バウ、スターンデッキに各1人の合計3人でフィッシングのスタート。まず漁場に到着したら釣り場のコンディション、特に風と潮流の方向を確認し、船を制御する基準を確認しないとスパンカーを装備した船を操ることは難しく、ましてや刻々と変化する風と潮流の中で自船を自在に操ることなどは不可能になってしまいます。

基本編1:船を制御する基準の確認
漁場に到着後、船首を風上に向けスパンカーを展開。操船者の合図でスターンデッキで釣りをする人が仕掛けを投入。水深80m、ラインを70m出したところで止めて様子を見ます。この時点で重要なことは、スパンカーセイルを袋状にならないようフラットに張ること。船首を風上に向け船が停止したのを確認して仕掛けを投入することです。


この時使用した仕掛けは抵抗を減らし落下スピードの速い「ロケット鉛」100号にイカサビキ5本針、メタル製水中ライトが途中に付くタイプ。全てスリムな仕掛けであるため、意外と速く70mまでラインを出すことができましたが、ラインは少し船首方向へ斜めに入っています。この状況は船は船体に当る風によって風下に押し流されますが、非常に弱い風のため、あまり流されていないように感じるのですが、どうやら船尾方向から流れる潮流によって、少し船が押し戻されながら風下に流されているようです。したがって投入された仕掛けは潮流に流されるため船首方向へ斜めに入っていくわけで、そのまま船を制御しないでいると仕掛けはどんどん前方へ傾き、浮き上がってしまうことになります。

基本編2:確認できた状況と船を制御する方向
潮流はどうやら表面を緩やかに流れるだけで、海底までは流れていないようで、竿先はしっかりとオモリを捕らえているようです。この状況なら操船者はラインを見ながらラインを追いかけるように、たまに前進することで仕掛けを魚がいる水深に保つことができるため、ラインのフケも少なくアタリも取りやすいフィッシングになりそうです。この状況をもう少し説明すると、風が当る喫水上の船体はスパンカーによって船首が風上に向いているため、この船にとって最も風の抵抗を受けにくい方向です。喫水下の船底は船首喫水面積を上げるためにダガーボードで対応しているのですが船尾にドライブなどの大きな抵抗物があるため、どうしても潮流の影響を大きく受けてしまい船尾は左舷側に押し戻されようとするため、船首はその作用を受けて右舷側に向こうとします(スパンカーが最も有効な船舶でも同じことがいえます)。現在の状況は潮流が緩やかなため、あまり影響されないようですが、潮流が強くなれば前ページ『❶スパンカーの下桁コントロール』で説明したように、スパンカーの下桁コントロールをしないと船首は右舷側の風下に流され、船を制御する方向と逆に船首が向き、潮流についていけなくなってしまいます。スパンカーを左舷側に下桁コントロールすると船首は左に向きますので制御する方向に船首が向くことになります。
このことは潮流が緩やかで、風が強くなった場合にも同じことが言え、スパンカーをほんの少し左に振ることでスパンカーは有効に働くことになります。

基本編3:いよいよ3人でのフィッシングのスタートです
スターンデッキに位置する人(以下後者と呼ぶ)の仕掛けの投入によって船を制御する確認ができた操船者は、船のクラッチを前進に入れ、先に仕掛けを投入している後者のラインが後方に傾くぐらいのところで船を止め、バウデッキの釣人(以下前者と呼ぶ)に仕掛けの投入を指示します。
この動作はスパンカーを装備した船を操るテクニックのひとつです。潮流によって仕掛けは船首方向に流されます。したがって後者が先に仕掛けを下ろしているので、予め後者の仕掛けより船を先に進めながら前者の仕掛けを投入すれば、この仕掛けが目的の水深に届くころ両者の仕掛けは真直ぐに下りていることになります。このテクニックはオマツリを避けるためにも必要なことで、潮流が速い場合には特に重要になります。

▲操船者は2人の釣りの様子を見ながら魚探で水深と魚の反応をチェック。まだ釣り始めたばかりなので船の制御と魚の反応のチェックは最も重要な作業です。この仕事を怠ると広い海、魚がいない所では釣りになりません。イカの反応は大群なら魚探によく映るのですが、少ないと判断が非常に難しいため、操船者は自分の釣りよりもまずは他の2人に釣らせることを優先して操船しています。

▲水深90m、75〜80mに反応あり、操船者は2人にそのことを知らせいよいよ仕掛け投入のスタンバイ。その気配を感じて他の2人は竿先を大きく前後に開き投入しやすいようにしています。小型フィッシングボートではこのような配慮も重要なテクニックと言っていいはずです。さらにここでもうひとつ注意点、3人の仕掛けはできるだけ同じ仕様にすること、特にオモリや仕掛けの長さが異なると潮流により流され方が変わってしまうため、オマツリをひき起こしてしまいます。

  
操船者はロッドキーパーに竿をセットしてついに仕掛けを投入。その仕掛けが下りていく間も船を制御する船長はさすがです。3人の竿先間は約3m。水深75〜80mの反応に仕掛けを入れるのですから細心の注意が必要になります。この日の潮流は比較的緩やかなため、2人の間になんとか投入することができましたが、潮流が速い場合にはとても無理なこと。やはり潮下の者から順序良く投入することが基本でこのことも重要なテクニックになります。
さて前後の2人、操船者が反応ありと合図してから、ロッドキーパーに竿を置かず2人ともシャクリ動作を繰り返えしていたかと思ったら、仲良く小型のムギイカを釣り上げてしまいました。操船者の仕掛けがポイントの水深に届いたころ、この2人にはイカが掛かっていてすでに巻き上げ始めていました。やはり反応があった時仕掛けが入っていた2人に乗る確率は高く、後から追い掛けた操船者の仕掛けまでイカは待っていてくれなかったわけです。このあたりがボートフィッシングで操船者が釣りをする難しさ。どうしても釣りに専念できる他の2人に比べると差が出てしまう一面であります。

 

イカが確実に釣れることがわかり、いよいよフィッシングに熱が入ってきました。そして場所の移動です。イカの場合広く大きなエリアを回遊しているため、操船者は魚探により海底の様子を探りながら反応がある場所を探します。潮流の速さにもよりますが、この日のようなおだやかな潮流の場合にはポイントより少し潮上に上がった所から仕掛けを投入すれば、ちょうどよい所に仕掛けが下りることになります。3人ともロッドキーパーに竿をスタンバイした状態で場所移動ですが、2人はこの間仕掛けの手入れや入れ替えを行っています。できればその間に後者は操船者の仕掛けも管理することも心掛けてほしいものです。そして3人がスタンバイ状態で移動が完了することがベストです。ここで突然操船者の声。反応は60mと言いながらアスターン。船は急停止、止まった瞬間操船者の仕掛けは海中に…、さすがです。これこそ特権、他の2人も用意はしていましたがいまだに仕掛けは手から離れていません。

 
操船者の狙いがみごと的中した瞬間です。この笑顔を見てもらえばよくわかります。後者は少し出遅れたことと、いくらロッドキーパーを50度振っていても2人の竿先間が狭いことから、操船者の仕掛けにイカが乗る気配を感じ、この時にはもう仕掛けを船上に上げ始めていました。いよいよ仕掛けが上がってきました。後者はこの時ぐらいは手助けしてあげようと近くに付いています。この心遣いは小型フィッシングボートでのひとつのエチケットといっていいのではないでしょうか!たしかに操船者はこんな時でも船を制御する役目を果たさなくてはなりません。
ここで驚いたことがひとつ。後者の竿がしなっています。この時仕掛けは海中へさすがにまだラインは出ていませんが、この場で引き続き釣れ続くと予測しているようです。後でわかりましたが、操船者はイカを取り込み、すぐに再投入しています。しかし今度は後者に軍配が上がりそうです。この光景マイボートのフィッシングとしてはかなりのレベル。このように意欲的で他の人のことまでも考えた動きは釣果に大きく影響することは確実です。

 

 
いよいよイカが上がってきました。「いちにのさん」とイカの取り込みの様子を4点の写真で表してみました。さすが魚探で反応を確認しての投入とあって、5本針に3杯乗っています。やはり小型のムギイカのようです。後者はイカヅノを持ち、操船者が内舷向きにセットしたボックスキーパーに釣り上げたイカを入れています。イカはスミを吐きますが、そのスミが衣類に付着すると落ちくいため両者とも少し逃げ腰です。それでもなんとか無事に3杯釣り上げ満足しているようで、この場面カメラ艇から見ていましたが、とにかく素早かったことを付け加えておきます。手が4本、操船者は船の制御、後者は次の仕掛けの投入、お互いに次を考えての行動であることは間違いないことですが、今度は前者にアタリがあり巻き上げ始めています。どうやら取り込み中も船は釣りができる状態を維持していたようです。やはりスパンカーを装備した船でのボトムフィッシングは、釣り指向のボートオーナーにとってこの上ない魅力であることを見せつけられた場面となりました。

基本編4:船を制御する基準の確認
イカ釣りを始めて約3時間、初めはよく釣れていたのですが次第に釣れなくなり、風も落ちて潮流もどうやら止まりかけています。この状態では実践編においてスパンカーを装備した船の操り方を解説するには無理があるようです。そこで今回の釣り場で潮流や風が変化した場合、船をどう制御するかをテーマにして、いくつかの変化した条件を加えイラストと実践編での写真を組み合わせて解説することにしました。


この日の釣りをした海域の状況。イラストⅠを再現しています。風、潮流ともに弱いため、たまに前進することで船を操ることができました。風の方向は同じで潮流の方向と風の強さが変化した場合…

イラストⅠと風は同じ条件ですが潮流は逆(北)から流れています。イラストⅡのA船は潮流の方向に投入した仕掛けが流れることを考えると、制御する方向はAから出る矢印の方向になります。この時喫水下の船底部分にあたる潮流の影響は船尾側の方が多く受けるため、船首はB船のように左舷側を向こうとします。しかしC船のように船首を左舷側風下に向けていくとスパンカーにあたる風は、右舷側のセイルを押しますので今度は船首を右に戻そうとする力が加わります。
この時風と潮流が船に与える影響をイーブンとすると船はA船の向きでD船のようにD-1の方向に流れていくことになります。おそらくD-1のように流れる船の場合はイラストⅠでの実践編で証明できたように仕掛けの流れに合わせ船ををたまに前進することで付いていくことができそうですが、風が少し強くなるとD-2のように流れ、仕掛に付いていけなくなることは明らかです。このような時E船のようにスパンカーを左舷側に下桁コントロールして船首を潮上に向けるようにすると船は潮流の方向に制御しやすくなり、舵は真っ直ぐな状態で前後進で仕掛けに付いていくことができ、風がある程度強くなっても対応できるはずです。このようにスパンカーを装備した船舶は船をスパンカーで操ることができることから、ただ風上に向かせるだけの装備ではないことを、ここで知っていただけたのではないかと思います。

スパンカーのコントロールは正式には下桁コントロールと名付けている操作です。風が弱い時は少し多めにコントロールしますが、風が強くなるにつれ開く角度は小さくします。基本的には船首を風下に向けたい所までコントロールすることがベスト。いろいろと試してみることでこの操作を身に付けていって下さい。まさしく身体で覚える世界であります。
 

基本編5:イラストⅡの条件で潮流が速くなった場合

イラストⅡの条件で潮流が速くなると、喫水下の船底にあたる潮流によって船首はB船のように左舷側に向こうとしますので、船はスパンカーの下桁コントロールを行なわなくても制御しやすい方向に向かうのですが、投入する仕掛けは船が流されるスピードより速く潮流に流されてしまいます。潮流が速くなると釣人がよく対策する方法としてオモリの重さを重くする方法がありますが、その方法にも限界があります。さらに船を後進させ仕掛けを追いかけようとすると適度の後進ならよいのですが、一軸船は特に前進する舵効きと比べ方向性が定まらない不安定な制御となります。
したがって潮流が速くなることは投入した仕掛けが流れやすくなり、船を制御する基準を失うことにつながり、速くなればなるほど船は潮流についていけなくなってしまいます。よく漁業者が「今日は潮が速くて釣りにならない」と言っているのはこのような状況のことを指しています。仕掛けを投入するのに水深の2倍のラインを出しても届かないような潮流の場合にはほとんど釣りになりせん。

基本編6 スパンカーを装備した船の操り方の基礎を整理すると
●スパンカーは風があることで有効性を発揮します。
●スパンカーに当たる風によってスパンカーの下桁コントロールで船首を潮流の方向に向かせることができます。
●風と潮流が異なり船首が風上に向いていると潮流によって喫水下船底にあたえる影響は船尾側の方が多く受けます。
●風と潮流の方向が異なりどちらも船首方向からの場合は風が強くなっていくことにはある程度対応できますが、潮流が速くなると対応できなくなります。
●風と潮流の方向が異なり潮流が船尾方向から流れる場合、ある程度までは潮流に対応することができます。
●投入した仕掛けがどんどん流れていくような速い潮流ではスパンカーによる一本釣り(流し釣り)は不可能です。
スパンカーを装備した船舶を自在に操ることによってボトムフィッシングを行なうことは、釣り指向のボートオーナーなら誰でも望むところ。船首を風下に流されにくいタイプのフィッシングボートの登場により、有効なスパンカーシステムを装備することでいよいよ実現できるようになりました。
小型フィッシングボートは波の高さがある時は無理ができないことや、軽量で喫水が深く入らないため風の影響を受けやすいことなどの短所はありますが、フィッシングボート本来の釣り機能は充実してきています。スパンカーを装備した船舶を自在に操ることは、船の操り方の基礎をしっかりと習得した上で様々な経験を積むことで覚えていく世界です。日本中探してもテキストや説明書はないようです。プロの船頭でも自船の能力をよく知ることで船を操ることを身体で覚えています。小型フィッシングボートでスパンカーを装備した船が増えることによって、ボトムフィッシングのレベルは向上することは間違いなさそうです。

船を船首方向から見ると風の抵抗を受けにくい形状をしていることがよくわかります。船尾にはスパンカーのセイルが両舷に開いて見えます。船全体の面積と比較するとわずかな面積です。

船首が風下に向いていきます。船尾のスパンカーセイルの面積がどんどん大きくなっていきます。船首が風下に向かないように補う装置がスパンカーです。

開き止めロープのコントロールは下桁を左右に開くことで、前方からくる風により圧力を感じますが、それだけ後ろに下がる力も大きくなります。通常12度前後が一般的ですが、船に合った角度を探すことで操船による制御が容易になります。基本的には風が弱い時には開き、船が後ろに下がりすぎてしまう時には狭めますが、その日の風の強さや潮流の方向によってコントロールする必要があります。できるだけ開かないで使うことが理想です。

スパンカーとは!
水面上船体の側面投影面積中心を船尾方向に移動させることで、船首が風下に向かないように補う装置であり、その効力によって潮流の方向に船を制御しながら獲物を狙う道具です。

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