テキストP.29-P.32 実践編におけるパラシュート型アンカーによる船の流し方
カタログPDFはこちら4.実践編におけるパラシュート型アンカーによる船の流し方(釣り方)
12月の初め、天候は快晴、北北東の風が4〜6m/s、気温は低いがとても気持ちのよい朝、今日は、三浦半島城ケ島沖水深20〜40mで釣れているカワハギ釣りにチャレンジ。
今回乗船する船は、当カタログ内ベストフィッティングボートでお馴染みのSUNCAT 7.7 HT III、この船はバウスペースとリアスペース両方で釣りが行える広いデッキスペースをもち、船を止めて行う釣りには抜群の安定性を誇る横揺れに強いカタマラン艇です。しかしスパンカー装備がないために、風に対してすぐ横に向いてしまうので、今日のように風と波が少しある日は釣りづらい状況となります。まして操船者は釣りをしながら操船することができない配置関係です。そこで、今日の対象魚とコンディションから考慮して、パラシュート型アンカーを使用した流し釣りなら全員で釣りを楽しめる!ということになり、いよいよフィッシングのスタートです。
基本編1・出港準備・用意したパラシュートのサイズこの船は全長7.7m(25.4フィート)、キャビンが低いので風圧面積が小さく、カタマラン艇のため喫水は浅いがその面積は大きいタイプ。以前からこの船で様々なフィッシングを行っていますが、パラシュートを使った流し釣りでは直径3mのサイズが最も使いやすいと判断されていたため、まず用意したものはFMSタイプ FC-3N型。
次にサイズは小さいのですが、NEWタイプのパラシュートを試してみたくてFP-20(直径2m)の2タイプ。操船者を含め3人で釣りをする準備をして、いよいよ出港です。
基本編2・船を流す基準の確認漁場に到着、北北東の風5〜6m/s、波も少しありますが、フィッシングは十分に楽しむことができる状態です。船は船首を風上に向け停止、操船者の合図で仕掛けを投入。水深37m、25号のオモリを海底に付け、少し巻き上げたところで止めて様子を見ようとしたところ、船はアッという間に船首を風下に落としはじめ、オモリが海底に付く頃には、だいぶ流されてしまいそうです。これではダメだとオモリを35号に変えて再投入しましたが、ラインは風上方向にかなり斜めに入ってしまいます。そうこうしているうちに船の船首は横向きにどんどん流されてしまいました。この時はまだエンジンの制御はまったくしていませんが、操船者は釣りをしないで運転に専念しない限り釣りにならない状況です。そして、何回か投入している間に潮流の方向は船が流されている方向と逆で、流れは少し速いことが判明。このままではますます釣りにならないことが分かってきました。
基本編3・確認できた状況と船を流す方向
今日の対象魚はカワハギ、水深30m前後を攻めるのですが、竿の調子からオモリのサイズは25号がベスト。しかし現状から判断すると、どうやら潮流が速いので少し無理があるようです。今日の漁場は、北北東の風5〜6m/s、船首を風上に向けて停止してもすぐに風下に落とされ、アッという間に横に向いてしまう状況。操船者が前進を入れて流されるのを防止しても、スパンカーがないため船首は風下に落とされてしまいます(常に前進していれば別ですが)。潮流は風と逆の方向から流れ、これでは船を制御しない限り釣りにならない状況です。ボトムフィッシングの仕掛けは潮流の方向に流れます。したがって船を流したい方向も潮流の方向になるので、船を流す方向はイラストⅠで示すように、風上の方向に流されなければならないことになります。
基本編4・いよいよパラシュート型アンカーを投入してフィッシングのスタートです。
船首を風上に向けて停止し、パラシュートの投入です。この時操船者は船を風上位置で停止させることと、投入者に船が停止したことを合図すること、また投入者はスムーズにパラシュートを投入することが重要です。今回の投入作業は写真❶❷で見られるようにパラシュートをスムーズに投入でき、パラシュートの曳き索がたるんでいる間、❸で船首を風下に少し落としましたが、パラシュートが展開することで❹❺と船首は風上に向き❺の状態では完全に船は風上に向き、安定しています。
するとどうしたことでしょう。風速が5〜6m/sあるのに❻船は風上に向かって動いています。エンジンはパラシュート投入後❺の時点で切っています。船はパラシュートにあたる潮流の影響により、潮下へ向かって流されたのです。これは、船体に受ける風圧の影響よりも、水面下で展開するパラシュートにあたる潮流の影響のほうが大きいためです。この時のパラシュートのサイズは直径2mですが、3mならさらに良い結果が出ることは、仕掛けが潮流の方向に流れることを考えれば理解できると思います。
どんどんと船は潮下(風上)に流されていきます。少し波がある海域ですが、パラシュートによって船の船首が風上に向いているので揺れも少なく船は安定しています。さて今回はカワハギ釣り竿の調子は25号のオモリがベストといっていたT氏。釣りの成果はどう出るか、楽しみな局面になってきました。そうこうしている間約20分、❾船はどんどん潮下(風上)へ流れていきましたので、わが取材艇も釣りの成果を見に近づいて行くことにしました。
「この場所の水深は、アタリある…?」思わず大声で聞いてしまいましたが、水深25mなんとオモリ25号でただいまヒット中。どうやら、すでに数ヒキ釣り上げている様子で釣り人にも余裕が感じられます(少し悔しいですね…)。そしてまた魚が釣り上がってきました。小さなカワハギ君です。
次の瞬間、リリース!と叫んでやりました。
海中のパラシュート、ぐんぐんと船を引っ張っている様子が写真❷❸ からも分かると思いますが、物凄いパワーです。❹しかしよく釣りますね。実は今回パラシュート投入から、引揚げまでの40分間でカワハギ6ヒキ、ベラ2ヒキという釣果でした。
※今回カメラをもって実践編を撮りに行き、風も波も潮流もあり、まして風と潮流がまったく逆な日に出会えたことはパラシュート型アンカーの効果を伝える上で最も良い状況であったと考えています。
CHECK POINT
20〜25フィートクラスのボートで、吹き流しタイプのシーアンカーで直径1mくらいのタイプですが流し釣りに使用できますか?という質問をよく受けます。答えは、潮流がなく、風も穏やかならば……といっているのです、が!今回のように潮流や風があれば使えないことがよく分かってもらえたと思います。少なくともボトムフィッシングで使用する場合、船の全長に対して直径は30〜50%必要で、今回使用したサイズは直径2mと小さめなため、ギリギリのところで風上に上がれましたが、これ以上サイズが小さければ船は風下に流されフィッシングにならなかったはずです。
基本編5 今回の漁場の状況と潮流の方向が途中で変化したと仮定した場合の船の流し方を解説してみました。
今回の漁場の状況は、北北東の風5〜6m/s、潮流は風と逆でやや速く流れる状況でパラシュートを投入。パラシュートは展開し、船首はすぐに風上に向きましたが、船に与える影響はパラシュートにあたる潮流の影響のほうが強いためパラシュートがぐんぐんと船を引っ張って潮流の方向に流してくれました。そのため風下に流されずにすみ、フィッシングになりましたが、これ以上風が強い場合、または潮流が弱い場合には、パシュートのサイズが大きくないと対応できないことになります。
イラストⅡの条件で、潮流の方向だけ変化した場合、船は風と潮流の受ける影響が強い方に流れます。釣りの仕掛けは潮流の方向に流れるので船も同じ方向に流したいのですが、風が強いと船は風下に流されてしまいます。このような時、曳き索を船尾方向から2本取り、または船首サイドクリートからとることで、船首を風上から潮流の方向に向かせることができ、その結果船の水面下に潮流があたる面積が増えるので潮下へ流すことができます。
基本編6 引揚げ作業(FPタイプの場合)
引揚げ作業の場合、引揚げロープを手繰り寄せ、ブイ側から引揚げる従来のタイプは、作業が比較的容易なので、当コーナーでは新登場したセンターコードを開放して排水口を開く方法で引揚げるFPタイプの引揚げ方法を解説することにします。
まず操船者はエンジンを始動します。次に引揚げ作業者は曳き索に付いているセンターコード固定用フックから、センターコードを開放します。パラシュートの排水口が開き、写真❶のようにパラシュートは水面に浮いて抵抗体の抵抗はなくなります。この状態で船は風に流されますので、操船者は風下に障害物がないか注意する必要があります。❷パラシュートは閉じて水面に浮いているため抵抗なく引揚げることができますが、水中で水を含んでいるため勢いよくロープを引くと船が前進し、プロペラや舵に絡みやすいので一定のスピードで引くようにしてください。❸❹❺❻と船も前に出ることなく作業は完了しています。この時、再投入を考えデッキ上になるべく整然と引揚げることができればベストです。
基本編7・実践編におけるパラシュート型アンカーの基礎知識の整理
●船に適合するパラシュート型アンカーのサイズ(直径)は操業用(ボトムフィッシングで使用)の場合、船の全長に対して30〜50%の直径が必要で、水面上の面積が大きく、喫水下の面積が少ない船では、50%に近いサイズを必要とします。
●パラシュートを投入することで、船が風に流されるスピードを遅くすることができます。
●パラシュートを投入すると、パラシュートに潮流があたるため船は潮流に引っ張られます。
●風と潮流がある場合、パラシュートを投入すると受ける影響の強い方に船は流されます。
●センターコード付のパラシュート型アンカー(FMSタイプ、FPタイプ)ならパラシュートの抵抗体の抵抗の大きさをコントロールすることができます。
●パラシュートの曳き索を船尾方向から2本取り、または船首サイドクリートからとることで、船にあたる風の抵抗を増やすことができ、船を流す方向も多少コントロールすることができます。
●船首からパラシュートを投入すると、船首が風上に向くので船は安定し、揺れを防ぐことができます。
●投入、引揚げ作業時はエンジンを始動し、操船者は他船や障害物に十分注意して引揚げ作業者と協力しあい、スムーズに作業を終えるようにする必要があります。
パラシュート型アンカーを利用してのフィッシングは、漁場の状況(風の方向と強さ、潮流の方向と速さ)をよく確認してパラシュートを投入すれば、特別な状況を除いては船の船首は風上に向き安定し、フィッシングを楽しむことができます。広い範囲のポイントを流す場合、1〜2時間の間に一度も引揚げないでフィッシングに集中できたといったケースや船で食事をする際、スープや味噌汁などの調理ができるくらい船が安定しているので食事中は必ず投入しておくなどといった多様な使い方をするケースもあるようです。船に適合するサイズのパラシュート型アンカーを選んでボートライフを楽しんでください。